夏になると、必ず海の彼方の南の楽園を思い出す。湿気がなく、心地良い空気。目薬のように目に染みるかのような真っ青な空。南国の花と果物が混じったかのような、風の匂い。大航海時代、「楽園願望」をもって遥か海のかなたに漕ぎ出しかつての欧米人。いくつもの苦難の末に辿り着いた南国の楽園は、訪れる人を黙って笑顔で迎えるかのような、そんな変わらぬ風情をいつも漂わせている。そしてそんな楽園での貴重な短い数日間を何ものにも変えがたい思い出にしてくれる、夕日を眺めながらの極上の宴。今回はそんな空間に装っていきたい、コードレーンのスーツのご紹介である。


  
30年代のスタイルで誂えられたこの夏らしい気分に溢れたコードレーンのスーツは、 SAVOY dressmaker 沖坂氏が生前自身のために誂えたもの。ウエストコートなしのツーピースで仕立ててある。



フロントはシングルブレステッド・三ツ釦。ラペルはピ
ークドラペル。素材となっているコードレーンは、シア
サッカー、リネンと並ぶ、紳士服の代表的な夏の素材。
畝の立体的な凹凸が特徴の素材で、コットンあるいは
コットンとポリエステル混のものが多いが、中にはレー
ヨン混のものも見かける。柄はやはり白地にブルーが
最も有名だが、白地にグレイ、またはベージュといった
柄、白地にグリーンやピンクといったものも見かける。
コットンという生地でありながら、コシがあってパリッと
したシルエットを作り易いこの生地は、見た目にも涼しげ
な印象を与えるもので、それだけにかつてハワイやバ
ハマあたりのリゾート地のドレッシーな装いで見受けら
れた生地である。


肩の袖付けはクラシカルなロープドショルダー。
ラペルはあえて幅広で剣先の鋭角的なピークドラペルに。



クラバットは、40年代調の薫りがする派手めなヴィンテージの1本をあわせてみた。私が所有するクラバットの中では最も貴重なものの1本で、何とこれは絵柄が手描きで描かれているという大変珍しいもの。恐らく1940〜50年代のものと思われる。当時ハワイやフロリダといったリゾート地で、このようなハンドペイントで描かれたネクタイやハワイアンシャツといったものがお土産品として珍重された時代があり、本品もそうしたものの一品のようである。ネクタイをキャンバスに見立てて描かれた、楽園の風景。波の穏やかな浜辺。そこに佇む2羽のフラミンゴ、そしてその向こうにはホテルと思しき建物。この天地左右わずか数インチの小さな空間に、遥か海のかなたの楽園を想像させる世界を描き出す「粋」や「感性」。それはまるで、昔の日本人が俳句や短歌という限られた文字数の中に四季折々の風景やそのときどきの思いを込めて詠ったのと相似したものを感じさせる。
仕様は30年代のものによく見かけられた、細身の三ッ巻き仕様。
小剣裏にはパレットの絵柄が刺繍された、可愛らしいタグが。
メーカー名は"REMBRANDT"とあるが、詳細は不明。
恐らく当時多くあったストアブランドのようなものであろうか。



夏のリゾートスタイル。
最高に贅沢なひとときの、とっておきの装いとして。




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