最高に夏らしい紳士服の素材といえば、シアサッカー、コードレーン、リネンが三大巨頭であることは以前このコーナーでも述べた。過去このコーナーではコードレーンとリネンの素材によるスーツをそれぞれ紹介しているが、今回はシアサッカーのスーツを紹介する。これは当サイト管理人の古くからのつきあいとなる Good Wood 氏が数年前に SAVOY dressmaker にオーダーしたビスポークのスーツである。


シアサッカーの生地は、その独特の「しぼ」感、表面の縮れた触感が特徴的な素材である。その質感がゆえに夏は清涼感があり、現代ではスーツをはじめカジュアルシャツにも多く使用されている。シアサッカーという生地自体は元々シルクをこのようなしぼ状に加工したものだったらしく、その起こりは18世紀初頭、原産地はインドだったという。それが19世紀末葉にイギリスの植民地であったインドのカルカッタで英人用の夏服の生地として織られるようになり、1934、5年にはアメリカの生地メーカーがこの生地に注目し、素材を高価なシルクからコットンに置き換えて生産したところ大好評となり、以降現代までコットン素材のシアサッカーは、夏の紳士服の生地素材として定着していったらしい。ちなみにシアサッカーの語源はペルシャ語のミルクと砂糖を意味する「シーロシャカー(Shiro-o-Shakar)」から始まり、これが転じて「しぼ」「縮れ」を意味する「シールシャカー(Shirushakar)」となり、やがてインドに入って「シーアサカー(Shirsaker)」なるヒンディ語に転じ、英語圏の国に入って「シアサッカー(Seersucker)」となったという言い伝えがある。


  
仕様はスリーピースのシングルブレステッド三ツ釦でノッチドラペル。Good Wood 氏はここ数年は原点回帰志向で、誂えるスーツは殆どノッチドラペルで指定されている。これもひととおり服飾道楽を極めてきた氏が行き着いた境地なのかもしれない。



  
正面画像。釦は生成りのナットボタンを使用。
 
興味深かったのは、ジャケットの前身頃一番上の釦が、完全に「段返り」になっていたことである。SAVOY dressmaker のディレクターであった沖坂氏は生前、三ッ釦で何も言わなければ一番上の釦は殆どいわゆる「半返り」のような雰囲気で仕上げることが多く、着手の好みで留めることも留めないでおくこともできるような仕様になっていたのであるが、このスーツは完全に「段返り」になっていた。このあたりはディレクター・沖坂氏の感性であり、気分であり、気まぐれであったあもしれない。


春夏物のスーツではあるが
Good Wood 氏はウエストコートが付くスリーピースを指定された。



今回あわせた帽子はChristy'sによるMade in Ecuadorの純正パナマ。型はクラウンのセンター上部に入った盛り上がった筋が特徴的なオプティモ。クラバットはヴィンテージではなく、POLO by Ralph Lauren のレジメンタルをあわせてみた。僅かに見えるタイスライダーはヴィンテージのもの。ポケットチーフはアイリッシュリネンのものをTVフォールドで行儀良く挿しこんでみた。










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