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Column 8.
Boutonniere ブートニエール
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「ブートニエール」というのは、元々はフランス語で「ボタンホール」を意味する言葉だったらしい。これが転化して、ジャケットの下襟のボタンホールに挿す「飾り花」を意味する言葉にもなった。この「ブートニエール」、その起源は、中世ヨーロッパにおいて男性が女性に結婚を申し込むときに花束を差し出し、それを女性が受け入れる場合はその中から1本抜いて男性の胸に挿した、という習わしに由来するという。何とも素敵な習わしではないだろうか。結婚式で新郎が胸のラペルに花をつけるのも元々はこうした歴史的な背景からだそうである。
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結婚式で使用するブートニエールには昔も今も新郎が着用するホワイトタイ(=燕尾服)にあわせ、白いカーネーションや白いバラが用いられるが、昔の伊達者はちょっとしたパーティーやデート等、普段出掛けていくときにも、スーツやタイの色味にあわせ、これを胸に飾っていた。 |
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上の画像は、いずれも往年のハリウッド男優のポートレートより。左からフレッド・アステア、アラン・ラッド、そして名優ディヴィッド・ニーヴン。いずれも胸に挿した花がエレガントでチャーミング。花をボタンホールに挿しているのだから、いずれも襟のボタンホールは「本開き」であった訳で、彼らの着ていたスーツやジャケットが手仕事によるオーダー・メイドであったことを想像させる。
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さて、ブートニエールには朝挿した花が夕方にはしなびてきてしまう、という悩みもあった。そんな悩みに応えるアイテムとして「フラワーホルダー」というものが存在していた。これは入り口部分がラペルのボタンホールに引っかかるように作られており、中に少しだけ水を入れる、または水を含ませたガーゼやティッシュで花の茎をくるんで入れるもの。多くが銀製のものが多かったようである。またボタンホールに挿すタイプとは別に、裏側にピンが付けられ直接ジャケットに刺して留める「フラワーピン」と呼ばれるタイプのものも存在した。このアイテム、花を長くもたせるという機能的な目的以上に、見た目のエレガントな雰囲気という意味でも印象に残るもので、男性が身につけることのできる数少ない装飾的意味合いももつアクセサリーでもあった。 |
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私が所有するフラワーホルダーより。
上2つが「フラワーホルダー」、下はピンで留める「フラワーピン」のタイプのもの。 |
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ブートニエールというと、私はアガサ・クリスティ原作の海外ドラマ「名探偵ポアロ」を思い出す。ドラマの中でデイヴィッド・スーシエ扮する主人公エルキュール・ポアロは、花瓶の形をした大変素敵な小さなフラワーホルダーにブートニエールを挿し、それをラペルに着けて毎回登場するのだがそれが実にエレガントなのである。「花を愛でる」という嗜好を、いかに現代の男性が忘れ去ったかを思わされる。ちなみにポアロが着けているのは、恐らく後ろがピンで留めるようになっている「フラワーピン」のタイプのものだったのではないかと想像する。もしかしたらあるいはタイスライダーのようにボタンホールに挿してラペルを挟んで留める仕様なのかもしれないが、このタイプでそういう仕様だったらまさしく「スペシャルな」一品といえよう。
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ちなみに、海外ドラマの「名探偵ポアロ」の中で、ポアロがいつも欠かさず胸のラペルに付けているフラワーピンにまつわるエピソードが描かれる「チョコレートの箱」という話がある。ポアロがまだ若きベルギー警察の警官だった頃の話なのだが、彼がある事件について個人的に再捜査の依頼をとある婦人から受ける話なのだが、捜査を続けていくうちに二人はなんとなく親密な雰囲気になり、婦人も真摯に捜査協力をするポアロに親しみを感じ始めるのだが、お互いはっきりとその意思表示はせず、婦人はポアロに謝意を表する意味で銀製のフラワーピンを渡す。女性から男性に贈るプレゼントがフラワーホルダーとは、なんと素敵な話だろうか。元々ブートニエールの由来から考えると、その婦人にはポアロに対して、そのフラワーピンを胸に付けて、花束を差し出して欲しい、という思いがあっただろうか・・。物語でははっきりとは描かれないのだが、そんな淡い関係を視る者に想像させる。そしてそれをその後ずっと着けているという意味で、ポアロの彼女に対する気持ちが表わされており、何ともロマンティックでセンチメンタルな気持ちにさせられるエピソードの話だった。
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そんな素敵なエピソードもあるフラワーホルダー。私も機会あるごとに見つけるとついつい収集してしまうアイテムである。左側2つは貴重なアンティークのもの。左端のものが1910〜20年代のもので、小さくワラントマークも入っている。その隣の一品は、比較的近年のものらしいが、今となっては既に入手しづらいもの。ちなみにこの一品、洋書“The Boutonniere: Style in One's Lapel”にも掲載されている一品。そして右の5つは海外から入手。純銀製。いずれもピンで留めるタイプで、ビクトリアン調の柄が非常に素敵なものである。
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The Boutonniere: Style in One's Lapel
Umberto Angeloni of Brioni /著 UNIVERSE/刊
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Archiveのコーナーでもご紹介している、“The Boutonniere: Style in One's Lapel”。
ブートニエールの歴史を様々な絵画や写真などを織り交ぜながら紹介。
特にスーツやジャケットの色柄に合わせたブートニエールの事例を豊富に掲載しているので、
見ているだけでも優雅な気分に浸れる。
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さて、そんなブートニエールを私も挿してみた。
右はパーティーに出かける直前に、
嫌がる妻に無理やり撮らせた一枚(笑)。 |
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たまには優雅な気分でブートニエールをラペルのボタンホールに挿し、
パーティーや食事、そして散歩等に出掛けてみるのも良いかもしれない。 |
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