Column 7. Braces ブレイシーズ |
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今回とりあげるアイテムは、ブレイシーズ。ブレイシーズ(=Braces)というのは英国式の呼び名で、米国名をサスペンダー(=Suspender)という。判りやすくいうと「ズボン吊り」のことである。現代においてはブレイシーズを利用してトラウザーズを穿くという習慣自体が過去のものとなりつつあるものなのかもしれない。しかしながら、装ったときに独特の「シャン」とした気持ちにさせてくれるこのアイテム、古式ゆかしいスタイルを志向する紳士諸兄には、是非とも愛用し続けていってもらいたい装いの名脇役であるといえる。 このブレイシーズ、装いの上での役割といえば、「トラウザーズがずりさがらないように定位置に留めさせておく」という機能的役割と、「穿いたトラウザーズのクリース(=折り目)が綺麗に出るようにする」という、外見の美的役割の二つの大きな側面があるように思える。 |
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ブレイシーズは歴史的にはかなり古くから存在していたアイテムのようで、「Esquire20世紀メンズ・ファッション百科事典」には、1897年のシアーズ・ローバック社のカタログに掲載されたブレイシーズが紹介されている(左画像)。全体の形は、両肩から前身頃と背中にかけて掛かる帯紐部分と、トラウザーズにつけるパーツ部分から成り、帯紐部分は、当時は革製のものや絹製のもの、ビロードのものなどがあり、更に帯紐部分に細かい凝った刺繍や、宝石が散りばめられたものなど、様々なものが存在した。現在では帯紐がゴム地の伸縮性に富んだものやフェルト製のものをよく見かける。高級なものとして絹製の細かい刺繍がされたものも見受けられる。大抵のものはアジャスターで長さが調節できるようになっている。 | |
背中にあたる帯紐の処理について大きく分けると3つのタイプが見られる。@帯紐が背中の部分で「Y」の字になるもの、A同じく背中の部分で「X」の字になるもの、B背中の部分で「H」の字になるもの、の3種類。現在最もよく見かけるのは@の「Y」の字になるものだが、当時の広告を見ると「X」字や「H」字のものも見受けられる。 | |
上はいずれも1930年代当時の広告より。左の広告はブレイシーズの背中の帯紐を連結させるパーツが「Y」の字に見えるタイプ。真中は、背中の帯紐を連結させるパーツが二つのリング状のもので構成しており、付けたときに「X」字に見えるタイプのもの。右は連結部分にも帯紐を施してあり、付けたときの印象が「H」の字に見えるタイプ。 | |
トラウザーズに付けるパーツ部分の処理は、釦留めの方法と、クリップ留めのものと2種類見られる。釦留めのものは、トラウザーズに付けられたブレイシーズ用の釦に引っ掛けて留めるというもの。クリップ式のものはその名の通りクリップでトラウザーズを直接パチンと挟んで留める方法のもので、既に1930年代のには新方式のサスペンダーとして世に出回っていたようである。現代ではどちらもよく見かけるが、よりクラシックな雰囲気に拘るのであれば、釦留めのものに拘りたいところではある。トラウザーズ側に付けられるブレイシーズ用の釦は通常トラウザーズの前から横にかけての右側と左側にそれぞれ2個ずつ、後ろセンターに2個付けられるものが殆どである。トラウザーズの釦の付け方には3つほどタイプが分かれるようなので、以下に見てみよう。 | |
1.前も後ろも全てトラウザーズの内側に付けるというもの 30sのスタイルに限定せず、手持ちのスーツのブレイシーズ仕様のトラウザーズを見てみたら、POLO by Ralph Lauren、GIEVES & HAWKES、 Paul Stuart、 OLD ENGLANDと殆どがこのタイプであった。着けた際の見た目のスマートさを考えるとこのスタイルが一番妥当な処理かもしれない。ただしこの仕様は釦がトラウザーズの裏地のみに縫い付けられることが多いため、長年穿いている内に、裏地が釦に引っ張られて出てきてしまうという現象がたびたびあるのがちょっと悩みどころ。 |
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2.前の釦はトラウザーズの内側、後ろの釦は外側に付けるというもの 私が経験した中ではかつてのDraper's Benchのスーツのトラウザーズがこの仕様であった。特にトラウザーズのバックにV字スリットが入ると、ブレイシーズ用釦は外に出して付けた方が美しいシンメトリーを構築すると思う。前は、ウエスト部のダブル釦、チェンジ・ポケットやアジャスター等が付いているため、ゴチャゴチャするのを避けて内側に付けていると思われる。 |
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3.前も後ろも全てトラウザーズの外側に付けるというもの 私の所有する中では、30年代のヴィンテージのものと、SAVOY dressmaker(沖坂氏のビスポーク)がこのタイプであった。現代の一般的なスーツスタイルと比べると、やや野暮ったく見えるかもしれないが、最もクラシックでレトロスペクティブな雰囲気に溢れたものと言える。個人的には、このような本格的なヴィンテージ仕様のハイウエストのトラウザーズにこそ、ブレイシーズは最も映えるアイテムではないかと思う。 |
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紳士の装いに必要不可欠なブレイシーズ。 こんなアイテムひとつとっても調べてみると歴史があり、 そして拘るといろいろと拘るポイントがあるのは、なかなかに面白き世界である。 末永くつきあっていきたいアイテムである。 |
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