今回はコットン・リネンで仕立てられたスリーピース・スーツのご紹介する。このスーツは、生前親しくしていただいていた、SAVOY dressmaker の沖坂氏が春夏に向けた自らの一着として仕立てたものである。夏の紳士服の素材というとシアサッカー、コードレーン、リネンあたりが思い浮かびやすい素材であるが、シアサッカー、コードレーンはどちらかというと夏の昼間の強い日差しの下で映える明るいイメージがする一方、リネンは昼間も似合うのだが、よりはかなげな、夏の黄昏時を連想してしまう。遠く離れた異国の地の夏。蒸し暑さと、淡く切ない思い出。夏の過ぎ去った後に残るのは、皺のついたリネンのスーツと、かの地で出会った彼女の残り香‐。私がそんなストーリーをこの素材から想像してしまうのは、恐らく映画「愛人(ラマン)」の影響があるのかもしれない。フランスの植民地インドシナで出会った中国人青年とフランス人少女の禁断の愛を描いた作品。蒸し暑いひと夏を、貪るように禁断の愛に溺れていく二人‐。この映画の中で中国人青年役のレオン・カーフェイが、生成のリネンのスリーピースを、一分の隙もない、完璧な装いで着こなして登場していたのを思い出す。

  
今回のスーツは、そんなリネン素材を使用しながらも、よりしっかりとしたシルエットと耐久性をもたせる意味でコットンとの混合素材を採用している。全体の佇まいはまさに夏の異国の地の装いといった雰囲気。ヨーロッパの植民地であったヴェトナムやインド、はたまた上海あたりのアールデコな建物の景色にもはまる雰囲気である。あえてフロント釦を留めずに装ってみたい。


リネンとコットンとの混合素材によるこの生地は、肉厚でしっかりとしており、
表面の目の粗い、ラフな折り目模様が独特の趣を漂わせている。



 
フロントはシングルブレスト三ッ釦、ラペルはノッチド・ラペル。フロント釦を開けていてもウエストラインが崩れないのはその仕立て、縫製の素晴らしさを物語っている。


バックは往年のピンチバック仕様を採用。
真中にウエストバンド、センターから左右にそれぞれやや離れたポジションから
上下に2本ずつプリーツを入れるという、凝った仕様。





ジャケット下のウエストコート。
前身頃下のフロントポケット部分にもプリーツをたたむという、凝った仕様。
オールドスタイル好きを唸らせる、心憎い仕様である。




生成りのロングポイントカラーのシャツは、細かいヘリンボーン柄の入った、往年の Draper's Bench のもの。タイはベージュにピンドットのものをヴィンテージのタイバーで留めた。胸元のポケットチーフもベージュ系のものであわせてみた。


異国の地の夏の装い。
このスーツには、その皺とともに、
どんな思い出が毎年刻まれていくのだろうか‐。





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