現代において30年代のスタイルというと、どうしてもスーツスタイルが主流となってしまうが、当時は夏のアイテムでも現代とは趣の違ったアイテムが存在していた。今回はこの時代のスタイルが好きな「濃い」仲間内の間では定番ともなっている、30sのサマースタイルをとりあげたい。


今回とりあげるのは「シャツ・ジャケット」というもの。このアイテムは、1930年代当時「Beach Jacket」と呼ばれたアイテムで、夏、特にリゾート地でリラックスウエアとしてもてはやされていたアイテムである。


画像は1930年代当時のアパレル向けのカタログ「 APPAREL ARTS 」より。一見すると半袖シャツとほとんど同じに見えるが、現代におけるシャツと大きく違った点は、その短めの丈と裾の仕上げにある。裾部分は釦が施されたウエストバンドの仕様になっており、基本的にはトラウザーズの外側に出して着ることを前提としたものになっており、そのため丈が短めに仕上げてある。襟は現代のシャツに比べると大きめになっていたものが多く、シャツのようでありながら決してジャケットの下に着るものではなく、あくまでも「アウターウエア」としての役割を担ったアイテムであったことが窺われる。


この一見シャツのようでもありながらアウターウエアとしてのニュアンスをもったアイテム、当時はアメリカのパーム・ビーチやバハマのナッソー、そしてリヴィエラといったリゾート地で紳士のリラックスウエアとして大変重宝されていた。画像は当時のカタログや雑誌より。かのロウレンス・フェロウズのイラストにもこのような短めのシャツ・ジャケットとおぼしきアイテムを着た紳士が登場している。一様にハイウエストのトラウザーズにあわせた丈にしているのが判る。同素材のトラウザーズも誂えてシャツ・スーツにして装う紳士もいたようだ。暑くても首元にクラバットをあしらう紳士がいたのは、明らかに「エレガンス」という価値基準をもつ紳士がいたということを感じさせる。


 
今回のシャツ・ジャケットはまさしくそんな往年のスタイルを意識したもの。仕立ては SAVOY dressmaker 。このアイテムはディレクターの沖坂氏が Draper's Bench 在籍時、夏の時期にしばしば展開していたもので、当時も少量ロット生産で納品即完売というアイテムであった。今回ご紹介のこの一品は、氏の昔からの馴染みの顧客の方からの希望で仕立てられたものである。


フロントポケットはダブルインバーテッド・プリーツの仕様。
丈は短めで、ウエスト部分は2個の釦で留めるウエストバンド仕様。
袖丈はやや短めに仕上げられている。バックはプリーツが左右縦にたたまれた仕様になっている。



「半袖」でありながらもどことなくエレガンスの薫りを残したスタイル。
避暑地での散歩に装うのも一興ではないだろうか。








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