Classic Weekend in HAKONE ◆
(30th September 2006)




◆Chapter 2.

第2日目−1

ラリック美術館 @



 
2日めは以前から行きたいと思っていたラリック美術館を訪問。2005年3月に開館したばかりというこの美術館は、アールヌーヴォー〜アールデコ期にその卓越した感性で数々の素晴らしい作品を残したルネ・ラリックの作品が一堂に展示してある美術館である。


ルネ・ラリックはアールヌーヴォー〜アールデコという2つの美術様式を橋渡しした美術工芸作家。このラリック美術館は、、カルティエをはじめとした数々の宝石商から依頼されて製作した宝飾作品、当時の有名舞台女優サラ・ベルナールに依頼された宝飾品、当時の香水商に提供した数々の香水瓶や壺等のガラス作品、そして豪華客船ノルマンディー号や有名百貨店、注文建築住宅などの室内装飾や建築装飾に至るまで、彼の創った数々の素晴らしい作品が展示されている。独特の流線型を多用した様式美の作品群は、究極なまでの美しさを醸し出しており、見る人を魅了させてやまない。



以下は、ラリック美術館の展示作品集から、展示作品の中で個人的に魅力を感じたもの。
ペンダント/ブローチ 「冬景色」
ラリックは、自然からその創作活動のベースとなるものを数多くインスパイアされている。この作品は彼のそんな一面が見事に出ている、私が最も好きな作品のひとつ。エナメルで作られた手前のモミの木、そして周りを囲むように配された木の枝と実。まるで冬の森の中にいることを想像させつつ、そこから見える遠くの冬景色を見事に真中に配することで、このごく小さな世界の中に、広々と広がる銀世界の風景を描き出している。ブローチという小さなアクセサリーの小宇宙に、これだけの壮大な自然の景色を描き出してしまう彼の感性。まるで自分がその冬の森にいて、吐く息も白くなるかのような、そんな異次元感覚を憶えてしまうのは私だけだろうか。






愚者の帽子
ラリックの作品の表現の中には、「ゴシック趣味」を彷彿させるような、グロテスク趣味のものも数多くある。それはときとしてギリシャ神話に出てくる想像上の神や悪魔や生物がベースであったりするのだが、これはそんな彼のグロテスク趣味の作品群の中ではそのベースとなるモチーフが不明のもので、そういう意味でも特に心惹かれた作品である。傘の柄にあしらわれた顔は、果たして人なのか悪魔なのか。それとも封印された邪悪なる心なのか‐。そんな様々な想像を駆り立てる作品である。








ラリックの作品の中でも特に多く残された香水瓶の数々。ラリックというと、どちらかというとアールヌーヴォー期のものが印象に残りやすいが、個人的にはアールデコを感じさせるようになってきた頃のものも特に好きな作品が多い。
香水瓶「夜が明けるまで」
ウォルト社
香水瓶「五つの花」
フォルヴィル社
香水瓶「黒真珠」
フォルヴィル社

香水瓶「香水A(または香水N)」
リュシャン・ルロン社
1029年にリュシャン・ルロン社のために制作したこの香水瓶は、幾何学模様を多用し、どちらかというとアメリカン・デコにも通じる雰囲気があるもの。ニューヨークのクライスラービルを彷彿させる。ともすると全くラリックぽさはないかも知れないが、このやや近代的になり始めた頃の様式が個人的には堪らなく惹かれる。


豪華客船<ノルマンディー>のためのテーブルランプ
「ノルマンディー」
これは、客船「ノルマンディ号」の食堂のテーブルに設えられたテーブルランプ。当時の超一流の富裕層がバカンスに利用した客船の中でも特に絢爛豪華であったのが、「ノルマンディー号」である。カッサンドルが広告のポスターを手掛けたことでも有名なこの豪華客船は、船内の作りにも妥協のない美しさと拘りに溢れていた。それはインテリアもさることながら、こうしたテーブルランプひとつとってもラリックにわざわざ依頼するということを見ても、当時の物作りに対する姿勢、美への飽くなき追求心、そして経済的支援状況(=お金)というものが、究極のところで昇華し、交じり合って出来上がった賜物といえるのではないだろうか。効率性、合理性をより重視する現代においては、もう決して表れることのないものなのであろう。左は、当時の一等客室の食堂。




Chapter 3.
第2日目−2
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